しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~

 どれくらいの時間が経っただろうか。
 ふと異変を感じ窓を見上げると、小雪がちらついていた。

「もう帰らなくちゃ……」

 天気予報が正しければ、今夜はこのまま雪が続くらしい。
 絶え間なく空から降り注いでくる雪の粒の大きさから察するに、何センチか積もりそうだ。
 電車が止まってしまう前に帰らないと、大変なことになってしまう。
 衣都はピアノを元通りに戻すと、離れから屋敷に向かって歩き出した。
 その途中、なんとはなしに後ろを振り返ると、綾子の部屋の窓からチラリと人影が見えた。

「おば様……?」

 ピアノの音に誘われたのだろうか。それとも初雪の珍しさに心惹かれたのだろうか。
 どちらでもかまわない。あの窓の向こうには綾子が立っている。
 衣都は懸命に声を張り上げた。
 
「おばさまー!私、梅見の会ではおば様の好きな曲を弾くんですー!よかったら聴いてください!」

 綾子は衣都の心からの叫びを聞くと、サッとカーテンを閉めてしまった。

(今はこれが精一杯……)
 
 それでも衣都には一筋の希望の光が見えたような気がした。
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