しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
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発表会の当日、衣都はロイヤルブルーのロングドレスに身を包み、ステージ脇で待機していた。
客席は教室の生徒や保護者、その友人などでほとんど埋まっている。
和歌子の挨拶が終わり拍手が鳴りやむと、とうとう衣都の出番だ。
「衣都先生、頑張ってね」
樹里から励まされた衣都はゆっくりと頷き、ステージ中央へと足を踏み出した。
ステージの上には一台のグランドピアノを照らすようにスポットライトが当てられている。
衣都はステージ脇から、一歩また一歩とピアノに近づいた。
スツールを手前に引き腰を下ろすと、ペダルに足をかける。指を鍵盤の上に置き、息を吸う。
この指が奏でる旋律は今宵、誰に届くのだろう。
息を吐きだすと同時に、鍵盤を勢いよく叩く。
初めの一音は勢いをつけ、観客をピアノに釘付けにさせる。
情感豊かなメロディーが、幾重にも折り重なり、低音と高音のコントラストが華やかさを演出する。
反復した通りに、指は滑らかに動いた。
五線譜の描く重厚な音色が、ホールの隅々まで響き渡っていく。