しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「母さん!」
「ああ、響……」
椅子に座っていた綾子は、響がやってくると、顔を上げ涙ぐんだ。
綾子は旧四季杜邸と同じ敷地内にある使用人住宅の一室で保護されていた。
「梅園のベンチにひとりで座っているところを発見されたそうです」
「そうか」
響は綾子をまじまじと見下ろし、母親の変わり果てた姿に驚いた。
唇は青紫色に変わり、温かい部屋の中に連れてこられてなお、ブルブルと身体を震わせている。
すっかり憔悴していて、まるで生気がない。
響は綾子の前に跪いた。
「母さん、何があったんです?なぜここに?今日は来ないとばかり……」
綾子は口を噤んだまま何も答えようとしなかった。
……おかしなことがふたつも続けば、それは必然だ。
本来なら、諭し、おだて、懐柔して、言葉巧みに自白するよう誘導するが、今はとにかく時間がない。
響はあえて核心をついた。
「衣都をゲストルームから連れ出したのは母さんですね?彼女はどこにいるんですか?答えてください」
「し……知らないわ~!」
綾子はふいと顔を背けた。明らかに目が泳ぎ、呼吸が荒くなっている。