しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~

(相変わらず嘘が苦手な人だ)

 しらばっくれていても、顔を見れば嘘をついているかどうかわかってしまう。綾子は響と違って、生来の善人なのだ。
 嘘をつくことにも、他人を陥れることにも慣れていない。
 響は率直に自分の本心を伝えた。

「母さん、貴女は衣都がどんな想いで屋敷に通っていたかご存知ですか?彼女は打算も策略もなしに、『おば様に認めてもらいたい』とその一心だったんですよ」

 綾子との不和に思い悩み、来る日も来る日も屋敷に通い詰めた衣都を思うと不憫でならなかった。

「衣都をどこにやったんです……!母さん、お願いです。教えてください!」

 最後の方はとても平静ではいられなかった。
 普段は己を律し、取り乱すことのない響の切実な訴えは、凍てついた綾子の心を溶かしていった。
 
「ど、土蔵に……」
「土蔵?」

 土蔵と聞いて思い浮かべる場所はひとつしかない。
 敷地の東側には、敷地の案内図にも記されていない土蔵がある。
 子供の頃、敷地内を散策していた時に遊び半分で忍びこんだことがあった。
 どんな宝物が出てくるかワクワクしていたのに、土蔵の中には四季杜家の歴代当主が集めた骨董品や趣味のガラクタしかなくがっかりした。
 あんなに暗くて狭いところに衣都がひとりで閉じ込められている?
 居ても立っても居られなくなり、響は部屋の中から飛び出していった。

< 142 / 157 >

この作品をシェア

pagetop