しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
大広間から出てゲストルームに戻る途中、突然身体に力が入らなくなりガクンと膝が抜けた。
「衣都!」
響がすかさず身体を支えてくれたおかげで、ことなきを得た。
「大丈夫です……!ちょっとふらついただけで……」
「衣都ちゃん……」
廊下の柱から今にも消えそうなか細い声で衣都の名前を呼んだのは、綾子だった。
「おば様……」
綾子の目は真っ赤に充血していた。もしかして、演奏をこっそり聴いていたのだろうか。
「ごめんね、衣都ちゃん!貴女に酷いことをしたわ!どうか許してちょうだい……」
綾子はそう言うと、衣都に駆け寄りぎゅっと抱きしめてくれた。
「おば様、もういいんです。そんなに気に病まないでください」
衣都は子供をあやすように、ポンポンと綾子の背中をたたいた。何もかもをひとりで背負いこんで、思い詰める綾子をこれ以上見ていられない。
「おば様、教えてください。土蔵で私の背中を押したのは誰ですか?」
あの時、綾子の他にも足音が聞こえた。衣都の敏感な耳は綾子以外の足音を、精緻に聞き分けていた。