しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~


『ここで話すと寒いから車まで行こう』と促され、駐車場に停めてあった響の車に場所を移す。
 助手席に座るなり、紙袋を渡される。中に入っていたのは手のひらに乗るくらいの小さな小箱だった。リボンを解き蓋を開けるやいなや、衣都は歓声を上げた。
 
「わあ!美味しそうなチョコレート!」
「衣都は昔からチョコレートが好きだよね」
「はい」
 
 小箱の中には光沢のあるチョコレートがまるで宝石のように、綺麗に並べられていた。

「ひとつ食べてもいいですか?」
「いいよ」

 もう家まで待てなかった。
 発表会の運営のために、朝から動きっぱなしで腹ペコだったのだ。
 衣都は悩んだ末にフリーズドライしたイチゴがのせられたひと粒をつまみ口の中に入れた。
 口いっぱいに広がるビターな甘さ。トロリと濃厚なアーモンドのプラリネ。ほんのり感じるイチゴの酸味。ひと粒食べただけで、元気が出てくる。

「美味しい?」
「はい、とっても……」
「わざわざ買いに行ったかいがあったな」

 衣都を喜ばせることに成功した響は、悪戯が成功した子供のような茶目っ気を出しニヤリと笑った。

(私の、ために……?)

 響の頭の片隅を占有していた嬉しさがじわじわと込み上げ、胸が熱くなる。

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