しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
衣都が連れてこられたのは、四季杜家の屋敷から高速道路を使って五十分ほどの場所にある、高級レジデンスだった。
響は大学を卒業してからは、四季杜の屋敷を離れ、通勤しやすい山の手エリアでひとり暮らしをしている。
セキュリティロックをいくつも潜り抜けたその先に、彼のプライベート空間があった。
「うわあ……」
「気に入った?」
大理石の廊下の先には、広々としたリビングに加え、L字型のシステムキッチンがあった。
ルーフバルコニーからは、都心のビル群がいくつも見えた。遠くにはうっすら富士山の姿もある。
五階の角部屋ということもあり、風通しも良く、日当たりも抜群だ。
四季杜の屋敷ほど広くはないが、ひとりで暮らすには十分と言える。
「今日から衣都もここで暮らすんだ」
響に肩を抱かれたことで、衣都はようやく正気に戻った。
初めて訪れる響のマンションに感動している場合ではない。
「あの……!」
「もうお昼だね。お腹空いてる?どこかに食べに行こう。衣都もこの辺りの店を覚えた方が良いだろう?」
「は、はい……」
異議を申し立てようと意気込んだところで出端を挫かれてしまった。
響は鼻歌交じりに、玄関まで戻ろうとしていた。
……ああ、ダメ。
このままだと、響は衣都を顧みることなく先に進んで行ってしまう。
衣都はまだすべてを納得していなかった。
色々な情報が錯綜していて、心の整理が追いついていない。