しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「律には先に言っておくよ。衣都の家族だからね。僕達、結婚するんだ」
再び『結婚』の二文字が響の口から飛び出てきて、衣都は生きた心地がしなかった。
一方、律の驚きはそれほどでもないようだ。
「あーそういうこと?それであんなものを頼んだわけですね。ったく、何に使うのかと思いましたよ」
「兄さん、何を頼まれたの?」
「衣都の戸籍謄本だよ。結婚するなら必要だもんな?」
渡していいと言っていないにも関わらず、当然のように戸籍謄本が入っていると思しき茶封筒が響の手に渡る。
自分のあずかり知らないところで、色んな話が進んでいてそら恐ろしい。
二人とも既に結婚を決定事項として扱っている。……なぜ?
「じゃあ、渡すものも渡したし、俺は……」
帰宅の気配を察知した衣都は、慌てて廊下を走った。
そそくさと帰ろうとする律のセーターを掴み、フルフルと首を横に振る。
(置いて行かないで……!)
必死の形相で訴えたのが通じたのか、律は響と衣都の表情を見比べ、観念したようにため息をついた。