財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

 急に決まった同居生活ではあるが、これまで何ひとつ不自由なく暮らしている。
 専属の家政婦が細々とした家事全般を担っているため、衣都自身があくせく動くこともない。
 毎日部屋を掃除してもらい、ベッドには洗い立てのシーツをかけてもらう。
 清潔なシーツの香りを嗅ぐと、響とひとつになった夜のことを思い出さずにはいられない。
 響の腕の中で、愛される喜びを貪ったあの日から――衣都の日常は百八十度、変わってしまった。

「おはよう、衣都」
「おはようございます、響さん」

 パジャマのままリビングに行き、既に起床していた響と朝の挨拶を交わす。
 響は朝食を食べ終わり、シンクに食器を下げていたところだった。
 黒の上下のリカバリーウェア姿も、もう見慣れてしまった。
 衣都は冷蔵庫から朝食がのせられたトレーを取り出し、ダイニングチェアに腰掛けた。
 朝食は家政婦が昨晩のうちに作り置きしてくれたものを、テーブルの上に置くだけだ。

「コーヒー飲むよね?」

 そう言ってコーヒーカップを食器棚から取り出そうとする響を見て、慌てて立ち上がる。

「自分でやります!」
「自分の分を淹れるついでだよ。衣都は座っていて」

 響は慣れた手つきで豆を挽き、ドリッパーにフィルターをセットした。

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