財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

 心ない親戚からの罵声。
 あるいは真逆の甘言。

 自分たちの利益しか考えないハイエナのような汚らわしい大人達。

 両親の死を悼む時間すら与えられない、過酷な日々だった。

 秋雪が彼らの法定代理人として名乗りを上げなければ、事態は沈静化しなかっただろう。
 会社名義だった家屋敷を追い出された三宅兄妹がしばしの間、四季杜の屋敷に身を寄せることになったのは致し方のないことだった。

「響も仲良くしてあげてちょうだい〜!」
「わかりました」
 
 綾子からひと通りの説明を受けた響は小さく頷いた。
 響自身も二人の境遇には不憫なものを感じていた。
 区画は違えど同じ屋敷に住むのだから、ある程度の人間関係を築く必要性もある。
 兄の方は特段、問題なかった。
 律は自分達の現状を正しく理解しており、取り乱すこともなく、すんなりと四季杜の屋敷に馴染んだ。
 ……問題は妹の衣都だった。

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