しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
◇
(ピアノ……?)
その日、響はカウチソファに寝転がり、本を読んでいた。
一定間隔でページをめくり文章に没頭していた響の耳に、突然鮮烈なピアノの音が飛び込んできた。
普段なら気にも留めないが、今日に限ってはなぜかその音色に興味を引かれた。
四季杜の屋敷にはグランドピアノがある。
響は中学校を卒業するまでピアノを習っていたからだ。
本気でピアニストを目指していたわけではない。
四季杜の後継者としての教養を身に着けるために、習わされていたのだ。
響自身はピアノが好きでも、嫌いでもない。
(誰が弾いているんだ……?)
響がピアノをやめて以来、この屋敷にピアノの音がするのは初めてのことだった。
響は想像を膨らませながら、自室を出て廊下を歩いた。
ピアノは屋敷の中ではなく、イングリッシュガーデンを抜けた離れに設置されている。
ピアノに近づいていくにつれ、音の厚みが増し、鋭さが際立っていく。
響は離れの窓から、こっそり部屋の中を覗き込んだ。
そして、スツールに座る人物の横顔に、目を見張った。