しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
「ただし、今後、取引になんらかの支障が出ることも考えられる。響、わかっていると思うが損失は自分自身の手で補填しなさい」
「最善を尽くします」
「婚約発表は年が明けた二月、『梅見の会』で行おうと思う」
『梅見の会』とは四季杜家が主催する大規模な社交会である。
衣都も父が存命中に一度だけ連れて行ってもらったことがある。
四季杜家にとって梅の木は特別な存在だ。
四季杜財閥の社章には梅があしらわれている。
戦前まで住まいとして使われていた旧四季杜邸には、多種多様な品種の梅の木が植えられている。
四季杜家にとって梅は、家木であり、梅見の会は最も重要な年中行事なのだ。
「衣都ちゃんには、得意のピアノを披露してもらおうか。梅見の会には四季杜と縁のある企業の重鎮が多く出席する。くれぐれも失礼のないように」
招待客は皆、衣都がどんな人間なのか品定めをしにやってくる。
四季杜家の人間となるのに相応しいのか。
自分達にとって有益な人物なのか。
厳しい視線を向ける秋雪の様子からも、失敗は許されないのだとひしひしと感じた。
「わかりました」
衣都は居住まいを正し、はっきりと答えた。
これくらい難なく乗り越えられなければ、響の妻として今後やっていけない。