クセのある御曹司を助けたら「運命だ」とか言われました。
料理はどれもレストランに出されていそうなものばかりで目移りしてしまう。それに、どれも凄く美味しい。
「澄人さん、こんなに美味しい料理を毎日食べてらっしゃるんですね。私のお店の料理なんて比べ物にならないですよね……」
言った瞬間、愚痴っぽいことを言ってしまったと我に返った。
「ご、ごめんなさい!」
澄人さん、機嫌悪くしていないだろうか。当たり前のことを口にしてしまい、私も迂闊だった。
澄人さんの顔を見れないでいると、
「俺は羽賀さんのお店の味好きだよ。それに、常にこんなの食べてるわけじゃないし、今日は穂香を連れ出す予定だったから特別に作ってもらっただけ」
「なんならインスタントラーメンのときもあるし」と、場の空気を和ませてくれた。
「ほ、本当ですか?」
「うん。ここ近々売り払う予定だから。しょっちゅう来てるわけじゃないし、場所も遠いし広すぎるから掃除とか……諸々管理しきれないんだよ」
確かに車の中で売り払うとは言っていたけれど、こんなに良い空間を手放してしまうのは私だったら後悔してしまいそうだ。
「俺の親父が気に入って購入したみたいなんだけど社長を退いたときにここも俺の好きにして良いって言われたんだよ。『譲って欲しい』って交渉してきた取引先が言い値で買い取るって言ってくれたからさ。俺はそんなにこの家に思い入れもないし、売ってしまえーってね。家具も全部セットで来月には引き渡す予定」