財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。
「フロアのご説明をいたします」

 執事さんは最初に、昨日私も入った執務室を案内してくれた。
 その隣は応接室。シンプルな調度品の並ぶ洗練された空間に、品の良いソファとテーブルが置かれている。

 廊下へ出ると、執事さんは向かいの扉を指差した。

「執務室の向かいは秘書室、その隣が用具室。清掃に必要なものは、ここからお持ちください」

「は、はい」

 慌てて返事をするも執事さんは特に気に留めない顔で、続けざまにエレベーターの突き当りの部屋を指差した。

「依恋さんにお掃除いただくのは、主にこのお部屋です」

「ここは……?」

「ぼっちゃんの住まいにございます」

 執事さんは言いながら、手に持っていたカードをドアノブにかざす。
 がちゃりと鍵が開く音がして、彼は扉を開いた。

「さあ、どうぞ」

 促され、私は悠賀様の住まいに足を踏み入れた。

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