君は運命の人〜キスから始まったあの日の夜〜
俺は彼女を探した。せめて、あの時の礼が言いたかった。分かっているのは、名家の令嬢がこぞって通うと言われている女子校の制服を着ていたということと、胸ポケットに書かれていた文字が【ANZAI】と言うことだけ。俺は手当たり次第、彼女のことを聞いて回った。
そして、彼女が安斎という、旧華族の令嬢だということが分かった。しかし、母親が愛人だということで、あまり良い扱いはされていないようだった。
自分を救ってくれた彼女が幸せではないと知った時、俺は無性に苛立ちを覚えた。今思えば、この時からすでに彼女を愛していたのだと思う。
令嬢である彼女に近づくことは簡単ではない。だが、腐っても俺は宝月の人間。彼女に会うため、父に頭を下げた。もう一度、後継者にしてほしいと。追い返されるのは覚悟の上だった。あれだけ好き勝手に生きてきたのだから。だが、引くつもりはなかった。
父は少しの間を開けると、俺を見据えた。そして、こう問いかけてきた。
「覚悟はできたか」
俺は静かに頷いた。

__そして、二年前、彼女に再会したあの日、俺の世界は完全な色となった。
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