君は運命の人〜キスから始まったあの日の夜〜
大人になった彼女は、あの頃よりも美しく、強い信念を持った女性に成長していた。
「副社長。こちら、今年入社した、営業事務の伊藤さんです」
「伊藤椿と申します」
当時の営業部長を介して挨拶をしてきた彼女。その芯の強そうな真っ直ぐな瞳を見て、すぐにあの時の少女だと分かった。彼女は、俺があの時の男だということは気づいていなかったが、無理もないと思った。何せ今の俺とあの時の俺は、比べものにならないくらい異なるから。
礼を言えればいいと思っていた。だが、いざ再会してしたら、彼女が欲しくなってしまった。
すぐにでも彼女を手に入れたい。自分だけのものにしたい。知らなかった欲望が俺の中で渦巻く。そんな思いとは裏腹に、父から二年間、アメリカへ赴任をするように言われた。これからの宝月ホールディングスにとっては、避けては通れない道。彼女のことを考えれば気は進まなかったが、彼女に見合う男になるためにも、俺はアメリカへ行くことにした。
二年間。たった二年間だ。そう思っていたのに、まさかこの二年で、彼女の人生に大きな悲しみが降り注ぐことになるとは、この時は思いもしなかった。
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