語彙力ゼロなアドレナリン女子は、ダウナーなイケボ男子をおとしたい

一目ぼれ

 その男、木瀬翡翠は、私にとって最上級の顔をしている無気力男だ。高校卒業と同時に武者修行と称し、アチコチで単発のバイトをしながら生活をしているときに、出会った。 

 なぜ出会ったのか?

 そのサロンが私の名前に近い名前だったからだ。それだけの理由で戸を開き、こんにちは、と声をかけた。

 受付にいた青年が振り返り――
 そのやや釣り目がちで気の強そうな瞳が、その瞬間だけ柔らかな表情を帯び――
「いらっしゃいませ」と言った。

 本当にそれだけ。
 その瞬間に、私は恋に落ちた。

 即座に「働かせてください」と声をかける。青年は目を丸くして、「それはオーナーに聞いてみないと、分かりません」と言うのだ。

 先ほどの柔らかな表情は消えて、すっかり不愛想になり、明らかに迷惑そうな視線を送ってきていた。

 それでも、私はその青年、木瀬翡翠を見つけたことで、近くにアパートを借りて居ついてしまう。
 かれこれ3か月サロンで働きながら、アプローチを繰りかえしてはフラれているのだった。
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