公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

お母さんの過去

「さて、まずは何から話せばいいのか……」

 ゼペックさんは、座ってからしみじみとそう呟いた。
 その後、彼は何かを考える仕草をする。どうやら、私と彼との関係を説明するのは、簡単なことではないらしい。
 それは、当たり前のことである。簡単なことなら、私は事前にそれを知らされていたはずなのだから。

「まず非常に端的に私が何者かを説明するなら、あなたのお母様の関係者だと説明するべきでしょうか」
「えっと……」
「すみません。あなたの本当にお母様というべきですね」
「……」

 ゼペックさんの発言に、私は驚いた。
 お母さんの関係者。その言葉が、私には衝撃的なものだったのだ。
 ただ、それだけでなんとなく事情は見えてきた。要するに、彼は私にお母さんの面影を感じて、涙を流したということなのだろう。

「ルネリア様……と呼んでも大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。どうぞ」
「ルネリア様は、お母様がどのような立場の人物だったか、まだ知らないそうですね? ルネリア様が生まれる前に何をしていたのか、その辺りのことは知らないと伺っています」
「そうですね……母の過去に関して、私はよく知りません」

 ゼペックさんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 私は、お母さんの過去を知らない。私が生まれる前のことは、教えてもらっていないのである。
 いつかそれを聞いた時、母はそれを濁していた。恐らく、語りたくないことなのだろうと幼いながらも思った私は、それ以上何も聞かなかったのだ。
 ゼペックさんは、その過去に関係している人らしい。確かに、それなら説明するのは中々難しいだろう。

「アルーグ様とアフィーリア様から、僭越ながら私から話してもいいと許可をいただいています。ですから、あなたのお母様の過去について、これから話したいのです。よろしいでしょうか?」
「……わかりました。よろしくお願いします」

 私は、ゆっくりとゼペックさんに一礼した。
 お母さんの過去には、それなりに興味がある。もう母の口から聞けないその事実を私は聞いてみたいのだ。
 それに、ゼペックさんの正体も気になっている。それも合わせて、彼の口から色々と聞いてみたい所だ。

「単刀直入に言わせていただきます。私は、あなたのお母様に仕えていたのです」
「仕えていた……?」
「使用人として、あの方を支える立場にあったということです」
「それってつまり……お母さんは、良家のお嬢様だったということですか?」
「ええ、その通りです」

 ゼペックさんの言葉に、私は固まっていた。
 母が良家の娘だった。それが、信じられないことだったからだ。
 お母さんは、平凡な農民として暮らしていた。良家の娘が、どうしてそんなことになるのだろうか。
 事実を知らされる度に、謎が増えていく。一体、母は何者だったのだろうか。
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