公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

本当の名前

「あなたのお母様は、男爵家の令嬢だったのです」
「男爵家の令嬢……」
「ええ、貴族のお嬢様だったのです」

 私は、驚いていた。お母さんが貴族だったなんて、今まで思ってもいなかったことだからである。
 ただ、理解できない訳ではない。なぜなら、お母さんが公爵家の当主と何故出会ったのかということが、それなら解決するはずだからだ。

「お嬢様は、ラーデイン公爵家の使用人として働いていました」
「なるほど、そういうことだったのですね……」
「ええ……」

 ゼペックさんの言葉に、私は納得した。
 お母さんは、このラーデイン公爵家の使用人だったのである。
 今まで、父と母の関係を私は知らなかった。しかし、私はそれを今知ることができたのだ。

「このラーデイン公爵家でのお嬢様のことを私はよく知りません。ただ、アフィーリア様から優秀な使用人だったと聞いています」
「そうだったんですね……」

 よく考えてみれば、お母様は私の母のことを知っていたということになる。
 もしかしたら、お母様はお母さんと仲が良かったのかもしれない。彼女の今までの態度から、私はそんなことを思った。
 もちろん、自分の夫が浮気した相手なのだから、ただ単に許しているという訳ではないだろう。それでも、早くに亡くなったお母さんに対する同情心のようなものが、お母様の中にはあったのかもしれない。

「しかし、ある時男爵家には不幸が起こったのです。お嬢様のお父様……つまり、あなたの祖父にあたる旦那様が、借金を作り……その結果、男爵家は没落してしまったのです」
「没落……」

 ゼペックさんは、悲しそうな顔でそう言ってきた。
 貴族が没落する。それは一大事だ。
 だが、彼の表情は、それだけを表している訳ではないような気がする。恐らく、もっと不幸があったのだろう。

「借金取りから身を隠すために、あなたのお母様は名前を変えて、あなたが生まれた村に行ったそうです。諸事情により、私はその所在を知りませんでしたが……」
「だから、母はあの村に……」

 お母さんが、どうしてあの村にいたのか。その理由は、ゼペックさんの説明で理解できた。
 どうやら、母もかなり壮絶な人生を送っていたようだ。

「私は、長い間お嬢様がどうなったか心配していました……ただ、彼女の所在はまったく掴めず、十年程の月日が経ってしまったのです。しかし、つい先日親戚のダルギスと会った時、知ったのです。あなたのことを……」
「ああ……」

 ゼペックさんの言葉に、私は理解した。
 庭師のダルギスさんとは、仲良くさせてもらっている。そんな私のことを親戚に話すというのは、自然な流れだろう。
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