公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

当然のずれ(エルーズ視点)

 僕は、執事のゼペックさんとともに、ルネリアがいた村に来ていた。
 付き添ってくれるゼペックさんは、お父様から信頼できる人だと聞いている。
 その評価通り、彼はとてもできる人だ。対応も丁寧だし、とても優しい。最近、公爵家に雇われたそうだが、恐らく以前も執事として働いていたのだろう。

「さて、行きましょうか。連絡は既に入れてありますから、ご安心ください」「
「はい……」

 ゼペックさんに手を貸してもらいながら、僕は馬車から下りた。すると、僕達を待っていた人物が目に入って来る。
 一人は、この村の村長さんだ。以前、公爵家に来ていた彼は、少し緊張した面持ちでこちらを見ている。
 そして、もう一人僕達を待っている人がいた。それは、ケリーである。

「ケリー、久し振りだね」
「エルーズ様、こんにちは……」

 ケリーも、少し緊張しているようだ。その表情から、それは読み取れる。
 ただ、少なくとも僕の来訪を嫌がってはいないだろう。緊張しつつも、彼女は少し嬉しそうにしているからだ。
 もっとも、それは僕の願望なのかもしれない。本当は嫌がっている可能性もあるので、まだ安心することはできないだろう。

「びっくりしました。エルーズ様がこの村に来ると聞いて……どうしたんですか? 一体?」
「あ、うん。実は、この近く……といっても、距離は結構あるけど、そこに公爵家の別荘があってね。せっかくだから、ケリーに会いたいと思って」
「僕に、会いたかったんですか?」
「うん、そうだよ」

 僕の質問に、ケリーは目を丸めて驚いていた。
 そんなに意外なことを言ったつもりはない。だが、彼女にとってはそうではなかったようである。
 それはつまり、僕達の間に認識のずれがあるということなのだろうか。

「僕は、ケリーのことを友達だと思っているんだ。だから、会いに来たいと思ったんだ」
「僕が、エルーズ様と友達?」
「……嫌だったかな?」
「いえ、そういう訳ではありません。ただ、なんというか、恐れ多いというか……」
「恐れ多い……そっか、そうだよね」

 ケリーの言葉で、僕はあることに気がついた。
 僕は、公爵家の令息である。一方、彼女は平民だ。
 そこには、差がある。その差によって、僕達の認識が同じになるはずはないのだ。
 僕は、気軽にケリーを友達と呼べるだろう。しかし、ケリーは同じようにできない。僕の方が、立場が上だからだ。

「それじゃあ、今からでもいいかな?」
「え?」
「これから、僕達は友達……駄目かな?」
「……いえ、エルーズ様がいいなら、喜んで」

 僕の提案に、ケリーは笑顔を見せてくれた。
 こうして、僕は彼女と友達になったのだった。
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