公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

彼女の部屋で(エルーズ視点)

 僕は、ケリーの家に招いてもらっていた。
 彼女の家は、農家であるそうだ。というか、この村で暮らしている人々は、ほとんど農民であるらしい。

「お父さんも、お母さんも今は働いているんです。本当は、僕も働かないといけないんですけど、今日は特別ということで……」
「そうなんだ、大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫だと思います」

 ケリーのご両親は、農家としての仕事に勤しんでいるようだ。そのため、今は家の中に二人きりである。

「えっと……どうしましょうか? とりあえず、飲み物でも出しましょうか? といっても、水くらいしかないんですけど……」
「気を遣わないで大丈夫だよ?」
「まあ、でも、お客様ですから……」

 僕は、とある部屋に通されていた。ここは、ケリーの部屋であるらしい。
 ベッドと小さな机と椅子、それに本棚といった最低限のものしかないこの部屋は、二人でも少し狭いくらいだ。
 ただ、そう思うのは僕が貴族だからなのだろう。平民としては、このくらいの大きさの部屋は一般的なのかもしれない。

「少し待っていてくださいね。そのベッドの上に座っていてください。疲れているなら、転んでいてもいいので」
「あ、うん……」

 ケリーはそう言って、部屋を出て行った。恐らく、台所に行ったのだろう。
 とりあえず、僕はいわれた通り、ベッドに座った。すると、そこから軋む音が聞こえてくる。

「ふぅ……」

 そこで、僕はゆっくりとため息をつく。
 ここに来るまでの馬車の旅で、少し疲れてしまったようだ。
 少しはましになったとはいえ、僕はまだまだ体が弱い。馬車の旅というものは、中々体力を使うので、少し休んだ方がいいかもしれない。
 ケリーも、それをわかっているから、転んでいいと言ってくれたのだろう。ここは、その厚意に甘えた方がいいかもしれない。

「よいしょ……」

 僕は、ケリーのベッドに寝転がった。
 公爵家の高級なベッドとは違うので、寝心地はそこまでいいとはいえない。それは、わかっていたことだ。
 ただ、それでも寝転がると心が安らいでくる。

「うん……」

 僕は、ゆっくりと目を瞑った。眠るつもりはないが、ケリーが来るまではこうして休んでいようと思ったのだ。
 これから、僕は彼女と色々な話をしたい。そのために、少しでも体力を回復しておきたかったのだ。
 そうしていると、改めて思った。もっと、元気になりたいと。
 これからも頑張って元気になる努力をしよう。僕は、少しぼんやりとしながらも、そんなことを思うのだった。
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