公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

楽しい時間は(エルーズ視点)

「それで、ルネリアがね。僕の隣で寝ていて……」
「ルネリアらしいですね……」

 僕は、ケリーと話をしていた。
 彼女と話すのは、とても楽しい。こうやって、友達と話すのは初めての体験だ。こんなにも楽しいものだったなんて、まったく知らなかった。
 考えてみれば、僕はまだまだ知らないことばかりだ。これから、もっと色々なことが知りたい。彼女との話を経て、僕はまた強くそう思うようになった。

「失礼します」
「え?」
「エルーズ様、そろそろお時間です」

 ケリーと話をしていると、部屋の戸がゆっくりと叩かれて、そんな声が聞こえてきた。
 ゼペックさんには、帰る時間になったら教えて欲しいと頼んで、外に待機してもらっていた。どうやら、時間が来たようだ。

「もう時間が来たみたいだ。そろそろ帰らないといけない」
「そうですか……残念です」
「うん、僕ももう少し話していたいよ」

 正直な話、まだ帰りたくはなかった。
 だが、駄々をこねてはいけない。約束は約束だ。守らなければならない。

「ケリー、今日は本当に楽しかったよ。いつになるかはわからないけど、また来たいな」
「……今度は、私の方から公爵家を訪ねます。ルネリアにも会いたいですし……もちろん、ラーデイン公爵家が良かったら、ですけど」
「いつでも大歓迎だよ。お兄様もお母様も、邪険に扱ったりはしないだろうし、全然大丈夫だよ。あ、でも、そっちから連絡するのは大変だよね……今度、公爵家の方から連絡して、そっちの良い日を伝えてもらえるかな?」
「わかりました。それじゃあ、そうさせてもらいます」

 僕の言葉に、ケリーはゆっくりと頷いた。
 これで、ケリーも公爵家を訪ねられるだろう。今度彼女に会うのが、もう楽しみだ。それに、ルネリアの喜ぶ顔が見られるのも嬉しいものである。

「よし、それじゃあ、そろそろ帰るよ」
「はい……」

 僕は、ゆっくりと立ち上がり、部屋を出て行く。すると、ケリーもついてくる。送ってくれるつもりなのだろう。
 そのまま、僕達は玄関まで来て、家の外に出た。そこには、馬車が止まっている。ゼペックさんが手配してくれていたのだろう。

「ケリー、また会おうね」
「はい……エルーズ様、お元気で」
「うん、ケリーもね」

 僕は、ケリーと固く握手を交わした。彼女の温もりを、しっかりと確かめてから、ゆっくりと手を離す。
 こうして、僕は彼女と別れるのだった。ケリーは、馬車に乗ってからも、僕が見えなくなるまで、見ていてくれた。
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