公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

いざという時は

 私は、サガードと恋人関係になった。
 それで正しいのかどうかはよくわからないが、正式な婚約をしていない以上、そう表現するしかないだろう。

「まあ、父上や兄上も、話は進めてくれているらしいんだが……」
「うん、お母様やお兄様もそんな感じで話してくれたよ」
「色々と大変なんだろうな……残念ながら、俺達にできることは、あまりない訳なんだが……」
「そうだね……」

 王族とラーデイン公爵家は、現在協議を重ねている。私とサガードが婚約できるかどうかは、そこで決まるのだ。
 私とサガードの婚約は、非常に難しい問題である。それは、イルフェアお姉様とサガードのお兄様であるキルクス様が婚約しているからだ。
 貴族と王族の婚約というものには、役割がある。政治的な面の影響力があるのだ。
 王族とラーデイン公爵家の婚約が二つ。それは、権力の偏りである。そのため、簡単ではないのである。

「上手くいってくれるといいよね?」
「ああ……というか、上手くいってくれないと困るというか……」
「そうだよね……まあ、逃げ道がないという訳でもないけど」
「逃げ道?」

 私の言葉に、サガードは目を丸めていた。
 今回の逃げ道、それを彼はわかっていないらしい。
 その逃げ道というのは、とても難しいものである。簡単なものではない。
 だが、逃げ道は確かにある。それを私は、知っているのだ。

「いざという時は、二人で逃げてもいいんだよ?」
「に、逃げる?」
「うん、駆け落ちというか、そういうこともできなくはないでしょう?」
「いや、それは……」

 サガードは、言葉を詰まらせていた。
 その反応は理解できる。駆け落ちなんて、とんでもないことだということは、私もわかっているからだ。
 ただ、それは確かな逃げ道である。いざとなったら、二人で田舎にでも行けばいいのではないだろうか。

「地位とかお金とか、そういうものがなくても、大好きな人と一緒なら、なんとかなるものだと、私は思っているんだ」
「大好き……?」
「お母さんと一緒に暮らしていたから、そう思うのかもしれないね。まあ、村での暮らしは、周りの人にも助けてもらっていた訳だけど……」
「……いや、お前の言う通りだよ。そうだよな、二人でいれば、なんとかなるものだよな」

 サガードは、私に対して笑顔を見せてくれた。
 その笑顔が、私にとってはとても嬉しいものだった。彼が、王子という地位を捨ててでも私と一緒にいたいと思ってくれていると、わかったからである。
 きっと、これなら大丈夫だ。私は、そう思うのだった。
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