公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

調査1 上のお姉様

 私は、ラーデイン公爵家の人達のことを調べることにした。
 まず第一の対象は、私の姉にあたるイルフェアお姉様である。
 彼女は、二人いる姉の内の一人だ。ラーデイン公爵家の長女であり、兄弟でいえば二番目の上のお姉様である。

「……ルネリア? 私に何か用?」
「え?」

 という訳で、私は物陰からイルフェアお姉様のことを観察していた。お姉様に付きっ切りでいれば、その本性がわかると思ったからだ。
 しかしどうやら、見つかってしまったらしい。これは少し困った。もう出て行くしかない。

「え、えっと……貴族として、お姉様から何か学べることがあるのではないかと思いまして、こっそりついて来ていたんです」
「あら、そうなの? それなら言ってくれれば良かったのに……」

 私の言葉に、お姉様は笑顔を返してくれた。
 イルフェアお姉様は、いつも柔らかい笑みを浮かべる人だ。その笑みを見ていると、とても安心できる。
 しかし、油断してはいけない。彼女にも、何か裏があるかもしれないのだ。もっと気を引き締めておくべきだろう。

「といっても、今日は別に特別に何かがあるという訳ではないから、私のことを見ていても学べることがあるかはわからないのだけれど……」
「いえ、お姉様の立ち振る舞いは、いつも綺麗です。なんというか、華やかさがあるというか……」
「そ、そうかしら?」
「ええ、私もどうやったらそうなれるのか、ずっと考えています。お姉様は、普段から何か意識されているのですか?」
「別に、意識はしていないのだけれど……」

 私は、イルフェアお姉様に適当な質問をして誤魔化すことにした。
 ただ、これは普段から思っていたことではある。イルフェアお姉様は、歩くだけでも華やかだ。どうしてそんな風に見えるのか、私は少し気になっていたのである。
 しかし、お姉様はきょとんとしている。本当に、何も意識していないということなのだろう。つまり、その華やかさは生まれつき、ということだろうか。

「まあでも、貴族としての立ち振る舞いは子供の頃から学んでいた訳だから、無意識の内にそういう風にしているのかもしれないわね」
「そうですか……でも、その割にはオルティナお姉様は……あ、いえ、なんでもありません。今のは聞かなかったことにしてください」
「ふふ、あの子は少し奔放な所があるから、そう見えるのかもしれないわね」

 私は、つい余計なことまで口走ってしまっていた。
 もう一人の姉であるオルティナお姉様は、貴族らしからぬ人である。自由奔放とでもいうべきだろうか。彼女はそういう人なのだ。
 平民だった私にとって、それは親しみやすい部分ではある。ただ、今の言い方は良くなかっただろう。単純に失礼である。

「ええっと……まあ、オルティナお姉様のことはともかくとして、イルフェアお姉様はなんというか、特別なような気がします。その特別さの理由を、私は知りたいと思っているのです」
「特別ね……そんなに大したことをしている訳ではないと思うのだけれど」
「そんなことはありません。お姉様は、すごいと思います。お綺麗ですし、優しいですし、どうやったらそんな風に柔らかい雰囲気を出せるのか、私にはわかりません」
「……ふふ、そんなに褒めても何も出ないわよ」

 私の言葉に、イルフェアお姉様はまた笑みを返してくれた。
 ただ、その笑顔には少し陰りが見えるような気がする。それは私の気せいだろうか。

「まあ、私のことを見ていたいというなら、別に拒否しようとは思わないわ。えっと……それじゃあ、行きましょうかしら?」
「あ、はい」

 お姉様の言葉に、私は大きく頷いた。
 こうして私は、しばらくの間イルフェアお姉様と一緒にいることになったのだった。
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