公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

察する事実

 私は、サガード様改めサガードと話をしていた。
 王子である彼をそんな呼び方をするのは、本来なら許されないことだろう。ただ、今の私達はただの友達。この呼び方でいいのである。

「そうだ。ルネリアに、一つ聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと? 何かな?」
「いや、この屋敷に来た時にさ。二階から誰かがこっちの様子を窺っていたんだよ」
「え? 二階から?」

 サガードの言葉に、私は驚いた。そんなことを私はまったく気づいていなかったからである。
 二階から見ていたというと誰だろう。お母様やアルーグお兄様、イルフェアお姉様ではないことは確かだ。三人は、一階にいたからである。
 ウルスドお兄様は、出かけていていない。ということは、エルーズお兄様かオルティナお姉様ということになる。
 オルティナお姉様なら、仮に見ていたら声をかけたり一階に下りてきたりするはずだ。つまり、見ていたのはエルーズお兄様である可能性が高いだろう。

「それは多分、エルーズお兄様だと思う」
「エルーズお兄様? その人は、どんな人なんだ?」
「どんな人か……」

 サガードの質問は、私にとってすぐに答えられるものではなかった。エルーズお兄様は、どういう人か。それを一言で言い表すことができる言葉を探さなければならなかったからだ。
 考えてみれば、私はエルーズお兄様のことをそこまで知っている訳ではない。彼は、色々と謎が多い人物だ。
 私は、別にそれを知ろうとは思っていない。でも、なんというか、彼が二階から見ていたという事実は気になる所だ。

「綺麗な人かな?」
「綺麗な人……お兄様だったよな?」
「うん、でも、そういう感じの人だよ」
「そうなのか……」

 私の言葉に、サガードは意外そうな顔をしていた。それは、そうだろう。男の人に綺麗という褒め方は、珍しいはずである。
 ただ、エルーズお兄様はそういう言い表すべき人だろう。あの儚い雰囲気も合わせて、彼は綺麗だとか美人だとかが似合う人である。

「ねえ、サガード、エルーズお兄様はどんな風に外を見ていたのか、教えてもらえないかな?」
「え? どんな風に? それは、よくわからないな……遠くから見ただけだったし」
「近づいた時には、見なかったの?」
「……ああ、色々と他に意識がいっていて」
「そっか……」

 サガードの言葉を聞いて、私はあることを思い出していた。そういえば、エルーズお兄様が外に出ている姿を私は見たことがないのだ。
 それは、思えばおかしな話である。いくら私がこの公爵家に来て日がそこまで経っていないといっても、一度や二度くらいは見るはずだ。
 そのことから、私はあることを察する。もしかして、エルーズお兄様は外に出られないような体なのではないかと。
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