公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

頃合い(エルーズ視点)

 部屋で寝ていた僕の耳に、戸を叩く音が聞こえてきた。
 どれくらい寝ていたのだろうか。そう思って窓の外を見ると、夕日が沈んでいた。どうやら、結構眠っていたようだ。
 こんな時間に、誰かが僕の部屋を訪ねて来るなんて珍しい。そう思いながら、僕はゆっくりとベッドから体を起こす。

「えっと……誰ですか?」
「あ、エルーズお兄様、ルネリアなんですけど……」
「ルネリア?」

 戸の先にいる人の名前を聞いて、僕は驚いていた。
 ルネリアが部屋を訪ねて来るなんて、初めてである。それに、僕は動揺していた。今の僕の姿を、彼女に見られたくはなかったからだ。
 僕は、彼女に自分のことを話していない。ここに来たばかりの頃、彼女はとても落ち込んでいた。そんな状態の彼女に、僕のことを話して余計な気を遣わせたくはなかったからである。
 そして、そのまま僕は話していなかった。僕自身、それをあまり話したいとは思っていなかったからだ。

「頃合いかもしれない……いや、そうじゃない。彼女がここに来たということは……」

 ルネリアは、少し鈍感な所がある。例えば、僕の状態を気づいていない部分とかがそうだ。
 だが、同時に彼女は聡い部分もある。きっかけがあれば、僕がどういう状態なのかもわかるだろう。
 そしてきっと、それがわかったらここを訪ねて来るはずだ。多分、今がそういうことなのではないだろうか。

「入っていいよ」
「はい、失礼します」

 ルネリアは、ゆっくりと部屋の中に入って来た。その表情は、少し暗い。
 彼女は、ベッドの上にいる僕を見て少し驚いたような表情をした。だが、すぐにその表情は変わる。それは、やはりというような表情だ。

「僕のことを知ったんだね……」
「知ったという訳ではありません。サガードの話を聞いて、もしかしたらそうなのかもしれないと思ったのです」
「それを確かめに来たんだね……」
「はい……一度その疑念を抱いたら、聞かなければならないと思ったのです。それを抱えたままでは、今まで通りエルーズお兄様と接することはできないと思ったので……」
「うん、そうだね……」

 ルネリアは、ここに来た意図を話してくれた。
 確かに、僕がどういう状態なのかということの予測ができているのに、それを知らない振りするというのは変だ。それなら聞いた方がいいと思う彼女の考えは、間違っていない。
 僕に関しても、いつまでも隠しておけることではないとわかっていたことだ。多分、これがいい機会なのだろう。

「そこに座ってくれるかな? 僕のことを話すから」
「はい……」

 僕は、ベッドの傍の椅子にルネリアを座らせた。
 こうして、僕は彼女に事情を話すことにするのだった。
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