公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

疑問を感じて(とあるメイド視点)

 彼が、どうしてここにやって来たのか。それを私は知りたいと思う。

「どういうことですか?」
「まず前提として話しておきましょう。あなた達のことは、私しか知らない。父上も母上も、あなたが今ここにいて娘とともに暮らしているとは知りません」
「……そうですか」

 アルーグ様の言葉に、私は少し驚いた。てっきり、これはラーデイン公爵家が主導していると思っていたが、そういう訳ではないようだ。
 彼は、気まぐれと言っていた。その言葉の通りなのだろう。今回のこれは、彼が独断でしていることなのである。

「八年前のあの日、私はあなたがやめたことに違和感を覚えていました。あなたは、一身上の都合でやめたと辞表に示していました。確かに、男爵家には問題があったようですが、その連絡をあなたがいつ受け取ったか、そこに私は疑問を感じたのです」
「違和感ですか……」
「父上の様子も変でした。あなたがいなくなってから、父は少し挙動不審だった。それにあれから酒も飲まなくなった。それも合わせて、私はあの時のことを記憶の片隅に留めていたのです」

 アルーグ様は、賢い人だ。当時はまだ彼も十歳くらいだったはずなのに、そこまで考えていたなんて、驚きである。

「それから数年経って、私はそのことについて調べてみようと思いました。私も、自分の手足として動かせる人員もできたのでね……それで、あなた達のことを知ったのです」
「そういうことだったのですね……」

 アルーグ様は、大人になったことで、自分の疑問を調べることにしたようだ。
 その結果、私が見つかりそれを監視していた。それが、彼がここにいる事情なのだろう。
 しかし、どうして彼が自らここに来たのだろうか。それこそ、部下にでも監視させていればいいのではないだろうか。

「……私があなたのことを調べようと思ったのは、万が一のことがあり得たからです。そして、実際にそれは起こっていた……」
「ルネリアのことですか?」
「ええ、彼女の存在は私にとって悩むべきものです。公爵家の血を引く者……それがどういう意味か、あなたもわかるでしょう?」
「それは……」

 私は、アルーグ様の言葉に怯んでいた。
 公爵家の血を引く。その意味はもちろんわかっている。
 ということは、やはり彼はルネリアを迎えに来たのだろうか。だが、それなら父にも母にも言っていないということと辻褄が合わない。
 私は、ゆっくりと息を呑む。アルーグ様が何を考えているかわからない。しかし、ただ一つだけわかることは、私はルネリアを守らなければならないということだ。
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