公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

調査3 下のお兄様

 ウルスドお兄様と一日一緒にいたが、結局裏は見えなかった。
 もちろん、それはイルフェアお姉様の時と同じだ。一緒にいたのだから、裏なんて見えるはずはない。

「楽しかったなあ……」

 イルフェアお姉様やウルスドお兄様と過ごした時間は、とても楽しかった。
 しかし、だからといって油断することはできないだろう。隠し子の私が、こんな楽しい時間を過ごせるなんて、おかしいはずだ。
 でも、ラーデイン公爵家の人達が単純にいい人というだけなのではないだろうか。そんな考えが、私の中に浮かんできた。

「駄目駄目、そんな簡単に信用するべきではないよね……」

 だが、私はその考えを否定する。相手は、公爵家の人々なのだ。そんなに簡単に信じていい訳ではないだろう。
 色々と策略を張り巡らせるのが貴族だと、私は聞いている。だから、きっとここにも何かしらの策略があるはずなのだ。

「ルネリア、どうかしたのかい?」
「うぇ?」

 そんな私に、横から誰かが話しかけてきた。
 その方向を向くと、エルーズお兄様がいる。彼は、一番下の兄だ。
 実の所、私は今日彼を標的に決めていた。どうして、私はこうも見つかるのだろう。ちゃんと隠れているはずなのに。

「エルーズお兄様、えっと……なんでもありませんよ」
「そう? 少し顔色が悪いように思えるけど……」

 エルーズお兄様は、私のことを心配そうに見てきた。色々と考えていた私の様子を、具合が悪いと思ったようだ。
 いつも穏やかで優しいのが、エルーズお兄様である。その優しさに、私は何度も救われてきた。
 ただ、正直言って、その心配の言葉は彼にそのまま返したいと思うことがある。なぜなら、彼はいつも少し具合が悪そうに見えるからだ。

「うん? 僕の顔に何かついているのかい?」
「あ、いえ、そういう訳ではないんですけど……」

 エルーズお兄様は、綺麗な顔をしている。男の人ではあるが、彼を表現するならかっこいいよりも美しいというべきだろう。
 その綺麗さは、儚さとも言い換えられるかもしれない。なんというか、少し触れただけで壊れてしまいそうなそんな印象を受けるのだ。

「……何か悩みがあったら、打ち明けるんだよ。僕じゃなくてもいい。兄上達、姉上……オルティナでもいいから」
「は、はい。そうさせてもらいます」
「うん、それがいい」

 エルーズお兄様は、ゆっくりと笑った。その笑みは、思わず見惚れてしまう程に美しい。

「それじゃあ、僕はこれで行くね」
「え? あ、はい……」

 エルーズお兄様は、それだけ言って歩いて行った。
 その後ろをつけていくことはできたはずである。だが、私はそれを追いかけなかった。秘密を探りたい。そういう気持ちが、微塵も湧いてこなかったのである。
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