公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

突然の宣告(とあるメイド視点)

 私は、村でルネリアと平和に暮らしていた。
 アルーグ様は、宣言通り私達の生活に何も干渉してこない。別に疑っていた訳ではなかったが、その言葉に嘘偽りはなかったようだ。
 そんな生活が一年近く続いたある日、私は最寄りの大きな町の病院に来ていた。少し気になることがあったからだ。
 それは、別にそこまで深刻に考えていなかった。ただ、単純に疲れが出ているだけだと考えていたのである。

「……単刀直入に言いましょう。すぐに入院した方がいい」
「そんな……」

 しかし、私に告げられたのは非情なる現実だった。
 どうやら、私の体は危険な状態であるらしい。すぐに入院しなければならない程に。
 だが、話を聞いていた私は思った。入院して、それで本当にどうにかなるのだろうかと。

「……治るんですか?」
「……いえ。ですが、進行を遅らせることはできます」
「それでも、運命は変わらないのですね?」
「……はい」

 お医者さんは、私の言葉にゆっくりと頷いた。
 つまり、私はもう助からないのである。足掻くことはできるのかもしれないが、それでも私には死が迫っているのだ。
 それを理解して、私は思った。私には、やるべきことがあると。
 だから、私はお医者さんの提案を断ることにした。未来のために、私は行動を開始しなければならないのだ。



◇◇◇



 私は、家に戻って来ていた。そんな私に、ルネリアが駆け寄ってくる。
 彼女は、心配そうな顔をしている。病院に行くと言ったので、そんな表情なのだろう。
 彼女の顔を見て、私は泣きそうになる。だが、ここで泣いてはならない。彼女に今の私の状態を悟られる訳にはいかないのだ。

「お母さん、お帰り。どうだった?」
「ええ、なんともなかったわ。ただ少し疲れが溜まっていたみたい。お薬ももらったし、もう大丈夫よ」
「そうなの? それなら、良かったね」

 私の言葉に、ルネリアは安心したようである。その顔を見ていると、自然と笑みが浮かんでくる。同時に、涙も出そうだ。
 私は、恐怖を感じていた。自分がもうルネリアと長くいられないという事実に、私は震える。

「でも、疲れているんだよね? それなら、今日は私が晩ご飯を作るよ」
「そう? それは嬉しいわね。でも、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、任せてよ」
「まあ、私の手伝いもしていたし、大丈夫かしら……」

 ルネリアの優しさが、心に染み渡ってくる。そんな彼女を悲しませなければならないことに心が痛む。
 せめて、残された時間は彼女のために使いたい。彼女とめいいっぱい思い出を作る。それが私の役目なのだ。
 そして、もう一つやらなければならないことがある。私は、彼女の未来を守らなければならないのだ。
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