公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

温かい時間

 私は、リオネクスさんとともに庭に来ていた。
 サガードは、客室に置いてきている。彼が気を遣って、二人で話す場を設けてくれたのだ。
 公爵家の人間ではない彼が、屋敷をうろつくと使用人の心臓に悪いということで、私達の方が出てきている。本当に、サガードはどこまで優しい人だ。

「ルネリア、最近はどうですか?」
「……どうというのは?」
「そうですね……毎日が、楽しいですか?」

 庭を一緒に歩きながら、リオネクスさんはそのようなことを聞いてきた。
 毎日が楽しいか。その質問には、何か意味がある気がする。彼の表情が、そんな感じのように思えるのだ。
 しかし、どういう意図があるのだろう。それが私にわからない。わからないので、とりあえず答えてみることにする。

「楽しいですよ。公爵家の人達は、皆優しいですし」
「そうですか。それは、何よりです」

 私の答えに、リオネクスさんは笑顔を見せてくれた。よくわからないが、私の答えは彼にとって嬉しいものだったようだ。

「……実の所、あなたがこの公爵家の暮らしが楽しくないというのなら、ここから連れ出そうかとも考えていたのです」
「え?」

 そんな私の心を見通したかのように、リオネクスさんはそんなことを言ってきた。
 その内容は、驚くべきことである。私をこの公爵家から連れ出す。それは、とんでもないことのように思える。

「こう見えても、色々とつてがあるんですよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、ですが、それを使う必要はないようですね。正直、安心しました。流石に、それを実行するとなると、私も色々と覚悟を決めなければいけませんでしたから」

 リオネクスさんは、笑っていた。だが、それは笑い事ではない。
 この人は、時々とんでもないことを言うことがある。しかも、それをサラっという。そういう飄々とした人なのだ。
 そのため、私はいつも驚かされている。でも、それがなんだか心地いい。

「リオネクスさんは……どうして、そこまで私のことを気にかけてくれるんですか?」
「おや……」

 そこで、私は質問をしてみることにした。
 リオネクスさんは、私のことをいつも気にかけてくれる。その理由が、私は気になっているのだ。
 だって、それはもしかしたら、私の思っている通りのことかもしれないからである。私は、ずっとそれを知りたいと思っているのだ。

「それは、ルネリアのことが大切だからですよ」
「どうして、大切なんですか?」
「……さて、何故でしょうか?」
「何故でしょうかって……」

 私の質問を、リオネクスさんははぐらかしてきた。
 しかし、その表情は少し暗い。その顔を見て、私は追及をやめる。それが意味のないことであることを悟ったからだ。
 リオネクスさんの中に、どのような思いがあるのかはわからない。だが、それを私が知ったとして、意味はないだろう。それは、私の自己満足でしかない。
 こうして、私はリオネクスさんと歩いた。それからは何も語ることはなかったが、それでもその時間はとても温かいものだった。
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