公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

お互いを知るために(アルーグ視点)

 かつての俺は、大切な人を突然失い、かなり落ち込んでいたのだろう。
 いや、落ち込んでいたというのは正しくない。不貞腐れていたという方が、あの時の俺には似合うだろう。

「アルーグ様、私達は婚約関係になりました。という訳で、お互いのことを知っていかなければならないと思うのです」
「……ああ、確かにそれはその通りだな」
「という訳で、まずは趣味の話でもしませんか? アルーグ様には、何か趣味はございますか?」
「趣味か……」

 そんな俺に、婚約者ができた。表情が乏しい彼女は、俺に趣味を聞いてきた。
 趣味といわれても、俺にはそんなものはない。だが、ここでそれを正直に言っても話は進まないだろう。

「強いて言うなら、読書か」
「読書ですか。例えば、どんな本を?」
「ジャンルは問わないな。流行りの本などを読むと言った所か」
「なるほど」

 俺は、とりあえず趣味らしきことを言ってみた。
 読書というものが、別に好きと言う訳ではない。しかし、話の種になるので、流行りものなどは読むようにしているのだ。
 それが、ここでも役に立ったという所だろうか。これで、少しは会話も弾んだといえるだろう。

「アルーグ様は、見境なしということですね」
「待て、その言い方は語弊がある」
「あるでしょうか?」
「なんというか……感じが悪いだろう」

 カーティアは、まったく表情を変えず、俺が考えてもてもいなかったことを言ってきた。
 見境がない。確かに、それはそうかもしれない。だが、その言い方は、いくらなんでも語弊があるだろう。

「もっと他の言い方はないのか?」
「では、ミーハーとでも」
「ミーハー……」

 ミーハーというのは、あまりいい言葉ではない気がする。
 だが、確かに俺は流行りものに触れているだけだ。そういわれても、仕方はないのかもしれない。

「アルーグ様、そう落ち込まないでください。私は例え、あなたが話題作りのために流行りものだけ読んで、それを趣味だと言っていることに対して、何も思う所はありませんから」
「……」

 カーティアは、さらにそんなことを言ってきた。
 まさか、俺の心中は彼女に見透かされていたとでもいうのだろうか。それがわかっていて、あんなことを言っていたなら、こいつも中々いい性格をしている。

「……ふっ、なるほど、お前は中々面白い奴のようだな」
「余裕ぶっているんですか?」
「……」

 俺の言葉に対して、カーティアはすぐに反論してきた。
 なんというか、俺はこの時焦っていたような気がする。
 もしかすると、その時から俺は、こいつには敵わないと、そう思うようになったのではないだろうか。
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