公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

変わらない表情に(アルーグ視点)

 屋敷の庭に出て来て思い出すのは、やはり彼女のことだった。
 彼女は、花が好きだった。庭の花を見て、笑っている彼女の姿は、今でもはっきりと思い出せる。

「花というものは、綺麗ですね」
「ああ、そうだな……」

 そんな庭に、俺は婚約者と来ていた。
 彼女が、そうしたいと言い出したのだ。その意図はわからないが、断る理由もなかったので従ったのである。

「私の趣味は、強いて言うなら植物鑑賞でしょうか。こうやって花を見ていると落ち着きます」
「……そうか」
「ただ、にわかなので花の名前はなんだと聞かれたら、すぐに答えられません。だから、聞かないでくださいね」
「……お前は、それで俺にミーハーだのなんだと言ってきたのか?」
「ええ」

 俺の言葉に対して、カーティアは淡々と返答してきた。それは、まったく悪いと思っていないかのような態度だ。
 いや、それはその無表情が与えてくる印象なのだろうか。もしかしたら、少しはにかみながら言っているつもりなのかもしれない。
 だが、俺はなんとなくそうではない気がしている。その無表情を見ていると、はにかんでいる所か、あざ笑っているかのように見えてきたからだ。

「それで、お前は植物鑑賞が趣味だから、庭に出てきたのか?」
「ええ、そうですね。まあ、客室にいつまでも籠っているのは、なんだか息苦しかったという理由もありますが」
「そうか。なるほど、そういうことだったのか」

 そこで、俺はあることに気づいた。
 俺は、このカーティアという人物を大人しい人物であると思っていた。それは恐らく、その表情が要因だろう。無表情であるため、活発な性格とはあまり思えなかったのだ。
 だが、彼女は俺が想定していた性格と真逆な性格だったようである。活発でひょうきん、彼女はそういう性格なのだろう。

「……俺は勝手な印象を押し付けていたということか」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない」

 俺は、カーティアに勝手な印象を押し付けていた。彼女は、自分で表情を作るのが苦手と言っていたにも関わらず、無表情だから大人しいと思っていたのである。
 それは、俺に非があったといえるだろう。彼女の言葉を噛み砕き、考えていればわかっていたはずだ。
 どうやら、俺もまだまだ未熟であるようだ。こんなことでは、この公爵家を継ぐ者として、やっていけないだろう。

「……お気になさらず、全ての非は、私にありますから」
「何?」

 そこで、カーティアはゆっくりとそう呟いてきた。
 それに、俺は驚いていた。なぜなら、その時の彼女の表情はまったく変わっていないにも関わらず、俺にはそれが落ち込んでいるように見えたからだ。
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