公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

夢の中で(アルーグ視点)

 夢というものは、現実とは違うものだ。その空想の中では、様々なことができる。現実では起こりえないことも、夢の中では可能なのだ。
 だが、俺の夢にそんな部分は微塵もない。夢を見る時、俺は決まって過去の光景をそのまま思い出すのだ。

「アルーグ様、どうかされましたか?」
「いえ、なんでもありません」

 夢の中で俺は、最愛の女性と会話していた。
 最近思い出すのは、あの時のことばかりだ。彼女がいなくなってから、俺は彼女の夢ばかり見ていたのである。
 それは、未練がましいことだった。諦めて割り切るべきことをいつまでも引っ張っていた俺は、愚か者としか言いようがないだろう。

「アルーグ様は、照屋さんですね?」
「そんなことは……ないと思うのですが」
「でも、私といつも顔を合わせてくれませんよね?」
「それは……そうですが……」

 その時の思い出を、俺は思い出したくなかった。なぜなら、そんなことを思い出しても辛いだけだったからだ。
 断ち切りたいその未練は、俺の意思とは関係なく押し寄せてくる。それに、俺は複雑な思いを抱いていたのだ。

「……」
「……何?」

 しかし、その時の夢は突然切り替わった。あの思い出すのが辛い明るい日々から、つい昨日の場面に切り替わったのだ。
 俺の目の前には、婚約者がいる。無表情な婚約者は、俺をその鉄仮面で見てきていた。
 変わらないその表情を、俺はただ見つめ返す。すると、彼女の顔が歪む。夢の中だからか、彼女の鉄仮面に変化が起こったのだ。

「……お気になさらず、全ての非は、私にありますから」

 その歪んだ落ち込んだような表情で、彼女は俺にそう言ってきた。
 それは、つい昨日聞いた言葉だ。もしかしたら、彼女はその言葉を放った時、こんな顔をしていたのだろうか。その無表情の裏に、そんな感情が隠されていたのだろうか。

「……思えば、俺は何も知らない。あの無表情は、なんなんだ?」

 そこで、俺は疑問を覚えた。そもそも、カーティアの無表情とは、どういうものなのだろうか。
 生まれた時から、表情が乏しかったという可能性もある。だが、後天的なものであるというなら、そこには何か理由があるはずだ。
 俺は、それを知りたいと思った。あの時の彼女の様子や、今目の前にいる彼女がどうしてこんな表情をしているのか、その理由が知りたかったのである。

「だが……それは」

 しかし、そこには明確な問題が発生するだろう。
 そんな質問をするということは、彼女を傷つけることになるのではないだろうか。
 そう思ったため、俺は自らの考えを捨てようと考えた。だが、それもすぐに否定する。それが正しいことではないと思ったからだ。

「……後悔する訳にはいかん」

 俺は、ある女性のことを思い出した。彼女とのことに関して、俺は後悔してばかりだ。
 何も言わないでいることは、心に安寧を与えてくれる。だが、踏み込まなければ、後悔が残るのだ。
 故に、俺は踏み込むことにする。後悔しないためにも、俺は動くことを決めたのだ。
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