公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

決意を固めて(アルーグ視点)

 俺は、再びカーティアと会っていた。彼女に、その無表情の理由を確かめるためである。
 それを聞くことで、彼女には不快な思いをさせるかもしれない。だが、それでも聞くべきだろう。婚約者となったからには、それは知っておくべきことだ。

「さて、今日はお前に聞きたいことがあるのだ」
「聞きたいこと? なんですか?」
「お前のその表情について、聞いておきたい」
「そのことですか」

 俺の質問に対して、カーティアは表情を変えない。
 だが、俺にはなんとなくわかる。彼女は、今少し困ったような表情をしていると。

「生まれつき、感情を表現するのが苦手だったのか?」
「いえ、そういう訳ではありません」
「それなら、何か理由があるのか?」
「はい、理由はあります」
「それを俺に聞かせてくれないか?」
「……」

 俺の言葉に、彼女は珍しく黙った。その沈黙は、話したくないということを表しているのかもしれない。
 俺が今知ろうとしていることは、彼女の繊細な部分の話なのだろう。それを話したくないと思うのは、至極全うなものである。
 だが、俺は知らなければならない。目の前の婚約者と向き合うためにも、彼女の心中を知っておきたいのだ。

「アルーグ様、それなら私からも交換条件を提示してもよろしいでしょうか?」
「交換条件? なんだ?」
「私も、アルーグ様のことを知りたいと思っています。あなたは、一体いつも何を考えているのですか?」
「……どういうことだ?」
「わかりにくかったですよね? それは、申し訳ありません。実の所、私はアルーグ様に対して、とある感想を抱いていました。あなたは、いつも遠くを見ていると」
「それは……」
「心当たりがあるようですね? それなら、私が知りたいのはそれということになります。あなたの心中を聞かせていただけますか?」

 俺に対して、カーティアは交換条件を提示してきた。俺の心中、それはつまり彼女の話をしろということだろう。

「わかった。ならば、俺の話をしよう」
「いいのですか? 恐らく、話したくないようなことだと思っていたのですが」
「ああ、そうだな……俺にとって、これは話したくないことだ。だが、俺は今お前に同じことを要求している。それなら、俺も覚悟を決めるべきだろう。お前に要求しておいて、自分は隠そうとするなど、許されることではないからな……」
「アルーグ様……」

 俺の言葉に、カーティアは驚いているような気がした。恐らく、彼女は俺がそれを了承するとは思っていなかったのだろう。
 しかし、俺は既に覚悟を決めている。そのため、迷うことは一切なかった。
 こうして、俺はカーティアに誰にも打ち明けていない自らの屈折した思いを打ち明けることになったのだった。
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