公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

愚かなる体裁(アルーグ視点)

「お前の事情は、よくわかった。詰まる所、お前は貴族の体裁を保つための表情が、怖くなったということなのだな?」
「ええ、多分そういうことなのだと思います。自分でも、よくわかっていませんが」
「そして、お前はそれを情けないことだと思っている。そういうことだな?」
「……え?」

 俺の新たなる質問に、カーティアはまた驚いていた。
 彼女の表情は、まったく変わっていない。しかし、今の俺にはなんとなくわかる。
 それを考えると少しおかしく思えた。自分達が被っている仮面というものが、どれだけ愚かなものかを理解したからだ。

「庭での会話の時、お前は少し落ち込んでいた。それは恐らく、その無表情に引け目を感じているからなのだろう?」
「それは……」
「だが、それはお前のせいではない。愚かなる貴族社会というものが、悪いのだ」

 俺は、はっきりとそのように思っていた。
 仮面を被り、人の顔色を窺う。それはなんとも愚かなことだ。お互いに本心でないと思いながらする会話に、一体どれ程の価値があるというのだろうか。
 無論、それは貴族の性だ。それが変えられるものではないということは、理解している。
 だが、少なくともその忌まわしき性の犠牲になった素直な女性が、そこに引け目を感じる必要があるとは到底思えない。それが、俺が出した結論だ。

「カーティア、お前は素直な性格なのだろう。俺にも、随分と好き勝手言ってくれる」
「素直……そうかもしれません」
「貴族として、それは不利なことなのかもしれない。だが、俺はそんなお前の性格を好ましく思う。虚構に塗れた人間よりも、お前のような素直な人間の方が、俺は好きだ」
「なっ……!」
「む?」

 俺の言葉に、カーティアはまたも驚いているような気がする。しかし、俺はそんなにおかしなことを言っただろうか。
 いや、彼女の今までの人生において、こんなことを言う奴はいなかったのかもしれない。それに驚いているというのは、そこまでおかしなことではないのだろうか。

「アルーグ様と出会って、時々思っていたのですが、あなたは少し鈍感な所がありますね?」
「鈍感? それは、どういうことだ?」
「いえ、こちらの話です。どうか、気にしないでください」

 カーティアは、俺に対して少し呆れているような気がした。鈍感、その言葉の意味することとは、一体なんなのだろうか。

「でも、あなたの言葉は嬉しかったです。ありがとうございます、アルーグ様」
「……いや、気にするな」

 そこで、カーティアは俺にお礼を言ってきた。
 お礼を言われるようなことをした覚えはない。だが、その時の彼女は笑っているように思えた。
 喜んでもらえているなら、それでいいのだろう。そう思いながら、俺は彼女との話を終えるのだった。
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