公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

這い上がってくる過去(アルーグ視点)

 カーティアの真実を知ってから、俺は和やかな日々を送っていた。
 彼女との関係も、良好である。恐らく、俺達はこのまま婚約者として過ごし、そのまま夫婦になるのだろう。
 その未来は、きっと明るいはずだ。俺はそのように考えるようになっていた。
 最近は、あの人のことを思い出すことも少なくなっている。俺の心に開いていた穴は、カーティアや他の家族との日常によって、埋まってきているのかもしれない。

「いやあ、アルーグ君も随分と大きくなったものだな。見違える程、立派になって、なんだか私まで感動してしまったよ」
「そう思っていただけているなら、こちらとしては嬉しい限りです」

 そんな俺は、ある機会にアルバット侯爵と話していた。
 彼は、父とは旧知の仲であり、俺もよく知っている人物だ。元々は、祖父の友人だったそうで、俺からすれば遠い親戚のような、そんな感覚の人物である。

「そうだ。ラディーグ君は、最近どうかね? 元気にやっているか?」
「ええ、父も何事もなく過ごしています」
「そうか……ふむ?」
「どうかされたのですか?」
「いや……少し気になることがあってね」
「気になること……?」

 アルバット侯爵の言葉に、俺は少し引っかかりを覚えた。
 彼は、明るい顔をしていない。ということは、その気になることというのは、何か暗い話なのだろう。
 俺は、少し身構える。アルバット侯爵が直接関係ある訳ではないが、彼の家に行ったきり、あの人が帰ってこなかったという事実があるからだ。
 だが、それが侯爵が気になっていることと関係しているとは限らない。そう思いながら、俺は自らの心にあった不安を振り払う。そうやって不安を拭えるようになったのは、俺の心の穴が埋まったからなのかもしれない。

「かれこれ、もう七、八年前になるか……君の父が、私の元を訪ねて来たんだ」
「七、八年前ですか?」
「ああ、まあ、昔のことだから、君は覚えていないだろうね。それで、その時、私は彼と酒を飲んだ。知っているかもしれないが、私は酒が好きでね。まあ、彼にも勧めたのだが……なんというか、予想以上に酔っ払ってしまってね」
「予想以上に?」
「ああ……まあ、あの時は私も酔っていたから気づかなかったが、あれは明らかに飲み過ぎていたか。しかも、その酔っぱらい二人が、使用人も酒を勧めてね。あの時、ついて来ていたメイドにも、結構な量を飲ませてしまった……うむ、まあ、情けない話だ」

 アルバット侯爵の話に、俺は少し震えていた。
 彼は覚えていないと言っているが、俺ははっきりと覚えている。七、八年前に父がとあるメイドとともにアルバット侯爵の元を訪ねたことを。
 俺は、ゆっくりと息を呑む。どうやら、俺はまたも彼女と向き合わなければならないようだ。
< 58 / 135 >

この作品をシェア

pagetop