公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

数々の疑念(アルーグ視点)

「それで、その日はふらつきながら、メイドとともに部屋に戻って行ったんだが……その次の日、メイドが慌てて屋敷を出て行ってね。なんでも、実家に問題があったらしいとか」
「……ええ、そのことは覚えています」
「おお、そうか……まあ、それでそのメイドには悪いことをしてしまったと思い、後日謝罪しようと思ったのだ。だが、次に彼と会った時に聞いたら、そのメイドはやめてしまったと聞いてね。彼も落ち込んでいたようだが……」
「……そうですか」

 アルバット侯爵の話に、俺は違和感を覚えていた。
 いや、それは彼の話に対する違和感ではない。正確には、もっと前から抱いていた違和感だ。
 あの人は、実家に問題があったから使用人をやめた。実際に、彼女の家は父親の借金で押し潰されたらしいため、それは間違いではない。
 問題は、それを彼女がいつ知ったのかということだ。アルバット侯爵の屋敷で、その知らせを受けるなんて、妙な話だと思っていたのである。

「そして、その後一杯誘ったのだが、断られてしまってね。禁酒したらしいね?」
「ええ、そうです」
「うむ。まあ、あの時の私も愚かだったな。あんなことがあったのに、酒を勧めるなんて……それから、私も自分の行いを反省して、酒はあまり飲まなくなったのだが、まあそれはどうでもいいことか」
「いえ、ご立派な心掛けだと思います……すみません、私の父のせいで」
「いやいや、悪いのはこちらだよ」

 アルバット侯爵との会話に、俺はあまり力を入れられなかった。色々な事実が気になって、それが頭に入ってこなかったのだ。
 あの人がいなくなった理由。俺は、ずっとそれを考えていたのである。

「アルーグ君、そのメイドさんは今どうしているか知っているかね? ずっと気になっていたんだが、ラディーグ君には、中々聞けなくてね。知っていたら、是非教えて欲しいのだ」
「彼女は……亡くなったと聞いています」
「……そうか。すまない、嫌なことを聞いてしまったね」
「いえ……」

 俺には、ずっと引っかかっていることがもう一つあった。それは、あの人がどうなったのかということだ。
 彼女は、父親の心中に巻き込まれて亡くなったと聞いている。だが、その焼け跡から発見された遺体の数が合わなかったと聞いたこともあるのだ。
 それを警察は、骨まで燃え尽きたのだろうと考えたらしい。だが、そんなことは普通はあり得ないそうだ。
 だから、俺は思っていた。彼女は、どこかで生きているのだろうと。願望かもしれないが、そう考えていたのだ。
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