公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

いつか正解を(アルーグ視点)

 現当主である父をこの公爵家から排除するということは、この俺がその地位を受け継ぐということである。
 それは、随分と早い継承だ。だが、それは仕方がない。そうしなければならないだけの理由があるからだ。
 そんな俺には、この機会にもう一つ区切りをつけなければならないことがあった。という訳で、そのことを目の前の婚約者に伝えたのである。

「いえい」

 その結果返ってきたのは、珍妙な掛け声と珍妙なポーズだった。
 俺の支えとなり、心の穴を埋めてくれた彼女は、少し照れながらそんなことをしてきたのである。
 長い付き合いのため、それが照れ隠しであるということはすぐにわかった。だが、照れ隠しであっても、それは確か喜んでいる時の仕草だったはずだ。

「お前の両親にも、改めてこのことは伝えるつもりだ……しかし、本当に大丈夫なのか? 度々心配になるのだが、ラーデイン公爵家には大きな問題がある」
「そのことでしたら、本当に何も心配いりません。両親は、アルーグ様のことを大そう気に入っていますから」
「……そうなのか?」
「ええ、その……無表情の娘が、それでも楽しそうだとわかる程に、嬉々として語る人だからと」
「む……」

 カーティアの言葉に、俺はなんともいえない気持ちになった。
 詰まる所、彼女は俺を両親にそんな風に語っていたという訳か。

「というか、それを言うなら、そちらも大丈夫なのですか?」
「……それは、どういうことだ?」
「だって、こんな無表情な女が公爵夫人になるんですよ? 色々と問題があったりしないのでしょうか?」
「そういうことか……」

 そんなことに問題がないことなど明白である。そう思って口に出そうとしたが、いつかに彼女と交わしたやり取りを思い出す。
 こういう時には、言葉ではなく行動で示すべきだったはずだ。そう思い、俺はゆっくりと立ち上がる。

「何を……んっ」
「……理解できたか?」
「なっ……!」

 彼女と唇を重ねてみたが、それが正解だったかどうか、俺はすぐに不安になっていた。
 なぜなら、彼女が少し怒っているような気がしたからだ。もしかすると、ここは行動で示す場面ではなかったのだろうか。

「……なんでしょうか。なんだか、無性に腹が立ちます」
「な、何故だ?」
「すかしやがって……」
「いや、それは……」

 どうやら、俺の今回の行動は裏目に出てしまったようだ。困ったことに、また正解を引くことはできなかったという訳か。
 ならば、また次の機会にこの経験を活かすとしよう。これから俺は、彼女と長い時間を過ごすのだ。きっといつかは、その正解に辿り着けるだろう。
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