魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

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 果物屋で桃と苺のカットフルーツ、自分には桃のソフトクリームを買い、近くの木製のベンチに子犬と座った。

「子犬ちゃん、どう? おいしい?」
「キュンキュン」

 食べる姿クチャラー、もふもふ可愛い、癒される。食べおえて子犬と戯れていた、そのときキーンと頭の中に機械的な音が鳴り響く。

(え、な、なに?)

 いきなり聞こえた"キーン"という音に辺りを見回した。そばで心配そうに見つめる子犬ちゃんに「大丈夫だよ」と微笑んだ。

【失礼いたします】

「はい?」

【よかった、聞こえているようですね。お嬢さん、お気をつけなさい。近くにあなたが会いたくない人が接近中ですよ】

 と、キーンという音ではなく、こんどは私の頭の中に声が聞こえたのだ。

【悪いことは言いません。今日は大人しく帰ったほうがいいでしょう】

 そうかも。

 この頭のやかに聞こえる声に驚くけど。
 声がいった私が会いたくない人……両親、カロール殿下、ヒロイン、親衛隊達を考え"サァーッ"と血の気がひく。

 ガリタ食堂でみた新聞に『カロール殿下が謎の熱に倒れた!』と掲載されていた。
 その熱は一日で下がったみたいなんだけど……カロール殿下が婚約破棄した、元公爵令嬢ルーチェ・ロジエを探しているとも、別の日付の新聞に載っていた。
 
 なぜ殿下が私を探しているのかはわからない。かりに殿下じゃないとすれば、幸せを掴んだヒロイン、ヒロインがそばにいればいい親衛隊じゃなく、探しているのは私の両親だ。

 彼らにみつかれば歳上、金持ちの貴族に売られるかもしれない。
 

【さあ、大事な荷物は待ちましたか?】

 声に従い、帰ろうとして思い出す。
 そうだ、シエル先輩から貰った"カロール撃退、魔晶石のブレスレット"の存在を。
 ブレスレットを財布から取り出すと、普段は透明な石がピンク色に染まっていた。

 私は確信する。両親ではなく……カロール殿下が近くにいると。

【忘れずに、夕飯を買って急いで帰りましょう】

 私は声にコクリと頷き。
 荷物を持つと、いちもくさんにパン屋に駆け込み好きなパンを買い、坂道をかけ、ガリタ食堂の裏階段をかけのぼり、玄関に入り"ほっ"と一息つく。

「ハァハァ、よかった……みつからず、無事に帰れたわ」

「キュン、キュン」

「そうだね、子犬ちゃんも驚いたよね……え、子犬ちゃん!」

 私の腋の下で、もふもふの尻尾を振っていた。
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