魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。

4

 婚約破棄から、半年の月日がたった。

 私はベルテ大陸の中央にある王都から、かなり離れた西の端。モール港が見渡せる丘の上建つ、おじさんとおばさんのカリダ食堂で住み込みで働いている。

 早朝六時ごろに目覚め海側の窓を開け、朝日に照らされキラキラと光るモール海を見渡していると。窓近くの木の枝にバサバサと羽音を鳴らして、一匹の梟が近くの枝に止まる。

「ホー、ホー、ホー」
「あっ、福ちゃん、おはよう」

 ここに住んでからのお友達――福ちゃん。
 彼はモフモフな胸にエメラルドのネックレスをつける「森の物知り博士」と呼ばれる梟だ。

 福ちゃんは毎朝どこから飛んできて、窓を開けた私に挨拶をしてくれる。彼はおしゃべりが好きで、昨日なんて私が太ったとか言いだして福ちゃんに、違うと反論したくらいだ。

 そんな福ちゃんは挨拶の後、私に文句を言いだす。

「ホホー」
「今朝は昨日よりも、お寝坊ですて?」

 福ちゃんは一分でも窓を開けるのが遅れると、口うるさく文句を言うのだ。私はその訳を言うために急いでベッドに戻り、古本屋で見つけた本を福ちゃんに見せる。

「起きるのが遅れたのは、この本のせいなの。この本が面白くって寝坊しちゃった、ごめんね」

「ホー」 

 へーって、福ちゃんの興味のない表情をわたしに見せた。この本の内容は魔法使いとお姫様の熱烈な恋のお話。
 
 二人の濃厚なラブシーンに胸をときめかせて。少しだけ読もうとしたのだけど面白くって、結局はまるまる一冊読んでしまった。

 だけど、福ちゃんには興味がないらしく。

「ホーホホー」

「え、もう、朝ご飯の時間だから帰る? わかった、気をつけて帰ってね。また明日!」

「ホー!」

 近くの枝から飛び立ち、翼を広げて飛んでいく福ちゃんを見送り。私は真っ白なシャツと、ネクタイ、黒いタイトスカート。お店のロゴ入りエプロンを着けて、食堂にいく準備を始めた。
 
< 8 / 60 >

この作品をシェア

pagetop