君の隣で歌いたい。
「あの頃のお前の力になれなかったこと後悔してる」
「柾輝くん」
「あの頃の俺は母さんといがみ合ってばかりいて、お前が歌えなくなってることにも気付かなかった。……だから今、お前が前に進もうとしているならいくらでも背中を押すつもりだ」
それは柾輝くんなりの罪滅ぼしのつもりだろうか。
そもそも柾輝くんが気に病む必要はないというのに。それでも胸の辺りが熱くなってくる。
「柾輝くんは私をやる気にさせる天才だね」
「分かったなら音楽から逃げるなよ」
「うん」
私はいい方向に向かっているのだと、柾輝くんと話すと実感する。ほっとしたのも束の間、私は重要なことを言い忘れていることに気付き、いそいそと鞄から楽譜を取り出してテーブルに乗せた。
「これ今作ってる新曲なんだけど」
「おう」
「今回もコーラスお願いできる?」
【linK】の動画は基本的に私の歌声を使っているが、曲感や雰囲気に合わせてバックコーラスに男声を入れることがある。
その時はこうして柾輝くんにお願いしているのだ。
しかしいつもならばぶつくさ言いつつも受けてくれるのに、なぜか柾輝くんは黙っている。