日給10万の結婚
 首を傾げながら色々と見る。まあ、玲は口に似合わず顔は結構いい顔をしているので、なんでも似合うと言えば似合うのだ。そんな中でも贈りたいもの、とは何だろう。

 すでにたくさんの物を持ってるし、何個かあっても困らない物がいいだろうな。ううん、難しい。

「そうそう、あと、当日の食事とかどうしようかと思って。どっか美味しいお店の予約とかしなきゃなんですけど、いいところ知りませんか?」

「外食ですか? まあそれもいいとは思いますけど」

「え、家で食べるとか、私が作ったとして玲が食べると思います?」

 私は笑い半分で言った。小さなころから金持ちでいい物を食べている玲が、私の作る貧乏飯なんて口に合うわけがない。てっきり圭吾さんも確かに、と笑ってくれるかと思いきや、きょとんとした顔でこちらを見た。

「多分大喜びで食べますよ」

「……えっ」

「玲さんは色々不器用だから上手く喜べないと思いますが、多分にやにやして笑いを抑えきれない顔で食べるところが想像つきます」

 彼は優しく微笑んでそう言った。私はといえば、そんな想像なんてまるで出来ず、眉を下げて困り果てる。玲が私の手料理で大喜びなんて、するはずないと思う。

 別に作るのはいい。それなりに料理はしてきたし、玲の家は立派なキッチンもある。でも私が作る物は庶民的なものばかりで、手が込んだものとかまでは作れない。

 でも、玲の事を子供の頃から知ってる圭吾さんが断言してしまうと、そうなのかもしれないと思ってしまう。いやでも私が玲に手料理を? ううん、やっぱり迷う。

「迷いますねえー、こんなに何していいか分からない誕生日も初めてですよ」

 近くの靴下を見ながらため息をついた。あ、靴下なら何足あっても困らないんじゃない? 誕生日に靴下って笑えるけど。

 圭吾さんは小さく笑って言った。

「玲さんは幸せ者ですね、こんなに悩んでくれる人がいて」

「え? い、いや一応お世話にはなってるし」

「僕ははじめ反対でした。玲さんの案は無茶苦茶だったし、舞香さんが苦労するのは目に見えていたから。でも今は、息ピッタリのお二人を見て、玲さんは見る目があったなって思ったんです。舞香さんは根性があるし、この短期間で凄い成長を遂げている。玲さんの計画は、正しかった」
 
 確かに初めて圭吾さんに会った時、彼は戸惑っていた。それが普通の人間の反応だろう。私と玲の関係は本当に特殊で、理解しがたいものだ。

 思った以上に玲の親は強敵だし、覚えることは多いし、大変だ。でも案外楽しんでいる自分がいるのも事実だ。それはやはり、玲があのパーティーで私を力いっぱい褒めてくれたのが大きいと思っている。私はあの言葉で、自信を身に着けたのだ。
< 91 / 169 >

この作品をシェア

pagetop