夫婦ごっこ
 自分の気持ちに確信を持ったこの日ばかりはその想いに素直でいたくて、奈央は他の事実はシャットアウトして今できる最大級で義昭に甘えた。

「義昭さん、一緒に寝たい」
「いいよ、おいで」

 昨日はできなかったけれど、今日はもう跳ねる鼓動にも構わずに義昭に自ら抱きついた。口にできない想いを伝えるように義昭の胸にすり寄れば、義昭はいつものように優しく奈央を撫でてくれる。義昭はただ優しいだけなのだとわかってはいるが、その行動にほんの少しでも奈央への愛が含まれていればいいと願わずにはいられない。でも、本当のところを追及すれば、自分が傷つくとわかっているから、奈央はただただ義昭の優しさに甘えた。

「今日の奈央さんはいつにも増して素直だね。ありがとう、奈央さん」
「なんでありがとう?」
「奈央さんが素直に甘えてくれたから」
「それお礼言うこと?」
「それくらい嬉しかったんだよ」

 義昭は余程頼られるのが好きらしい。奈央がそうするといつも喜ぶ。だからといってそれで礼を言われるのは変だと思うが、真っ直ぐな言葉を与えられれば、奈央も同じように返したくなる。

「じゃあ、私も。ありがとう」
「それは何のお礼?」
「甘えさせてくれるから」
「奈央さんはいつでも甘えていいよ」
「……じゃあ、今日は強く抱きしめてほしい」

 それは義昭の優しさにつけ込んだ言葉だ。義昭は絶対に断らないとわかっていて言った。今日だけでいいから、そうとは知らなくていいから、芽生えてしまったこの想いを受け止めてほしかった。
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