夫婦ごっこ
　表面だけを取り繕った生活を続けていく中、奈央の心は次第に不安で埋め尽くされていった。見た目の距離は変わっていないように見えるのに、二人の心の距離はなぜだかどんどん離れていくような気がしたのだ。そのことに奈央はひどく焦りを覚えた。自分の想いを知られる以前に、別れが訪れてしまうのではないかと焦った。

　それでも奈央は自分の態度を変えることがどうしてもできなかった。以前の距離感で接して自分の想いを隠す自信がなかったのだ。このまま時間が解決してくれないだろうかなんて消極的なことばかり考えてしまう。

　そうやって奈央が不安でいっぱいになる中、時間が解決するよりも早くに義昭が痺れを切らしてしまったらしい。

「奈央さん、話をしようか」
「……わかった」

　義昭に真っ直ぐに見つめられて、今日はもう逃がしてもらえないと悟った。義昭が奈央のことを訝しく思っていることには気づいていた。義昭はずっと何か言いたそうな顔をしていた。でも、奈央は何でもない振りをして、義昭と向き合うことから逃げ続けていたのだ。

　向き合ったが最後、もう彼の隣にはいられなくなってしまうと思っていたから。
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