夫婦ごっこ
「奈央さん、そんなに怯えないで？　奈央さんのこと責めようなんて思ってないから」
「……うん」
「奈央さんは最近僕のことを避けてるよね？」

　義昭にその言葉を言わせたことに奈央は強い罪悪感を覚えた。支え合うはずの家族に避けられているだなんて傷つかないはずがない。自分が傷つくのが怖いからと奈央は義昭を傷つけてしまったわけだ。こんなの家族失格だ。

　でも、どうしても元のままでいることなんてできなかった。ただのごっことして振る舞えたらいいのに、本物になってしまったから、彼のそばでいつも通りでいることなんてできなかった。義昭を避けることでしか自分を保てなかったのだ。

　義昭のことを想うなら本当は今ここで正直にすべてを話すべきなのだろう。でも、そんな勇気は奈央にはなくて、ただ謝罪の言葉を口にすることしかできなかった。

「……ごめんなさい」
「ううん。僕が何か奈央さんを傷つけることしたんだよね？　ごめんね。でも、その原因がどうしてもわからないんだ」

　義昭が悪いことなんて一つもないのに謝らせてしまった。申し訳なさで胸がいっぱいになる。奈央が傷ついたのは奈央自身の問題だ。義昭が悪いわけではない。彼はただ一途に慶子のことを想っているだけだ。奈央はそれをわかっていながら好きになったのだ。全部奈央の自己責任だ。
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