夫婦ごっこ
「奈央さん。私はあなたとは縁もゆかりもない人間です。あなたがそれをこぼしたとしても他の誰にも知られませんよ。愚痴でも弱音でも好きに吐き出してみませんか？」

　義昭は奈央の気持ちを確信した上で、手を差し伸べようとしてくれているらしい。確かにこれまで奈央は誰にも言えない想いを一人で抱えて苦しんできた。誰かに吐き出してしまえば楽になるのかもしれない。けれど、あまりにも長い時間隠してきたから、そう簡単に外に出せるものではなかった。

　義昭が善意で促してくれていることはわかったが、どうしても口に出すことができない。そうやって奈央が口にできずに苦しんだからだろうか。義昭は少し空気を変えて話しはじめた。

「すみません、あなたを追い詰めるつもりはないんです。先に私から話しましょうか。私も同じですから。といっても、私の想像が正しければの場合ですが」
「はい……？」

　同じだとか想像だとか言われても何一つわからなかったが、自分からは何も言えそうにないから、奈央は大人しく義昭の話に耳を傾けた。そして、義昭が淡々と語りはじめたその話は、確かに奈央と同じで、けれど奈央のそれよりも遥かに厳しいものだった。
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