夫婦ごっこ
 義昭に連れられてやってきたのは大きな公園だった。大通りから入ってすぐのところにあるベンチを指し示されたから、奈央は大人しくそこに座った。

「ここなら周りを気にせずに話せますね。奈央さん、不躾なことを訊いてもいいですか?」
「ええ? 何ですか?」

 最初の台詞が気になりはしたが、義昭のことだから不躾といっても、きっと奈央が困るようなことは訊いてこないと思った。笑って済ませられるような内容だと思った。だが、義昭から問いかけられた内容は奈央の度肝を抜くようなものだった。

「勘違いだったらすみません。奈央さんは徳永さんのことがお好きなのではないですか?」
「っ。それは……」

 まさか自分の恋心を言い当てられるとは思わなくて、奈央は言葉に詰まってしまった。これまでただの一度もその想いを気づかれたことはない。修平にも由紀にも親にも友人にも、奈央は誰にも気づかれないように必死に隠してきたのだ。

 それなのに、今日初めて会った義昭がそれを見抜くだなんて夢にも思わなかった。こんなことは初めてだから、次の言葉をどうやって紡げばいいのかわからない。ただただ動揺することしかできなかった。

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