夫婦ごっこ
「……本当に?」
「本当に。本音隠したりしないって約束する。だから、そばにいて? 僕が奈央さんにそばにいてほしいんだよ。奈央さんがいない人生なんて考えられないから」
「私、義昭さんこと好きなんだよ? 本当に好きなの。やめられないの」
「なんでやめるの? やめないでよ。ずっと僕のこと好きでいてよ。僕は奈央さんが一途だってことよく知ってるから。だから、そのまま僕のこと好きでいて?」

 そんなふうに言われたら本当にもうやめられない。やめようと思ってやめられるものでもないけれど、義昭本人から許されてしまえば、奈央はもう一生この想いを捨てられなくなる。義昭への想いで溢れかえるだろう。この想いに蓋をしなくて済むなら、奈央はきっと楽になる。でも、奈央に残っている最後の理性がそこへ踏み出すのをまだ躊躇った。

「……義昭さん、困らない?」
「困らないよ。僕のそばにいて、僕のことを絆せばいい。僕は奈央さんに絆されたい」
「え? でも、そんなの……」
「僕は甘えてくれる奈央さん大好きだから、また僕にたくさん甘えて、僕の心を奪って? きっと大丈夫だから」

 それは最も奈央が欲しくて、最も手に入らない未来だと思っている。そんなものを本当に望んでいいのだろうか。一度望んでしまえば、きっともう止められない。

「そんなことしたら義昭さんとの未来があるって思っちゃう。もう引き返せなくなるよ?」
「それでいいんだよ。それでいい。本当に大丈夫だから。大丈夫。心配しなくて大丈夫だよ。だから、僕のこと好きなまま、僕の隣にいて? ね?」
「……わかった」

 頷くのは怖かったけれど、義昭の瞳に嘘の色は見えなかったから、奈央はもう目の前の義昭を信じることにした。ただの一度も義昭は奈央から目をそらさなかったから信じられた。義昭と想いが通じる未来が本当に訪れるかどうかはわからない。でも、十年、二十年と長い時間を二人で過ごせば、少しくらいは想いを寄せてくれるかもしれない。そのくらいには前向きになれた。

「ありがとう、奈央さん。たくさん泣かせてごめんね。疲れただろうから先にお風呂入っといで?」
「うん、ありがとう」
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