夫婦ごっこ
「ありがとう、奈央さん。絶対に大丈夫だからね。そのまま僕のこと好きでいてね?」
「うん」

 義昭の優しい言葉を聞いていると夢の続きが始まったような心地になる。けれど、奈央を包み込むぬくもりも、奈央を優しく撫でるその手もすべてリアルで、今のこれが現実だと教えてくれる。奈央はその現実をもっと確かめたくて、義昭に強く抱きついた。

「奈央さん、苦しかったよね。ごめんね、苦しい思いさせて」
「私が勝手に好きになっただけだから」
「そんな言い方しないで? 奈央さんが僕のこと好きになってくれて、僕は今どうしようもなく嬉しいんだから。奈央さんはそのままでいていいからね? 何も我慢しなくていい。ありのままでいればいいよ」
「でも、義昭さんに嫌な思いはさせたくない」
「僕が今嫌がってるように見える?」

 義昭は腕の力を緩めて、奈央の顔を覗き込むようにしてきた。それにつられて義昭の顔へ目を向けてみれば、そこには驚くほど優しい微笑みを浮かべた義昭がいる。心なしか瞳もキラキラと輝いて見えた。

「……見えないけど……でも、義昭さんは隠すの上手いから」
「奈央さんの前では隠したりなんてしないよ。今、僕はどんなふうに見える?」
「……楽しそう?」
「うん、楽しいよ。楽しいし、嬉しいし、幸せ。だから、こうやって僕に甘えてて? お願いだから」
「……うん」
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