夫婦ごっこ
第七章 初めての世界
 おかしい。どう考えてもおかしい。なぜか奈央は今、ベッドの上に座った義昭に横抱きにされ、甘く見つめられている。しかも、これでもう三日連続だ。

 奈央が義昭にその想いを告白してから、義昭の距離感がおかしくなってしまった。やたらと奈央に触れてくるのだ。家を出るときには「いってらっしゃい」の言葉と共に奈央を抱きしめ、奈央が義昭の帰りを出迎えれば「ただいま」と言いながらまた抱きついてくる。家の中ですれ違えば必ず奈央の頭を撫でてから通り過ぎるし、隙あらば奈央の手を握ってくる。そして、毎晩奈央を義昭のベッドに連れ込み、寝るまでの空いた時間にこの甘い時間が訪れる。

 ベッドのヘッドボードにもたれかかって腰かけた義昭は、その腕の中に奈央を閉じ込め、奈央の髪を優しく撫で梳きながら、奈央をじっと見つめてくる。あまりにも甘いその雰囲気に奈央はもう今にも気が触れてしまいそうだ。奈央が義昭に片想いしているはずなのに、まるで逆の構図に理解が追いつかない。義昭は自分のことを誘惑しろなんて言っていたのに、これでは奈央の想いが増す一方だ。もう二人は両想いなのではないかと思ってしまいそうになる。
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